気になるものの覚え書き

読書の記録やゲームの設定の覚え書き

学術書Ⅱ・報い「この世はひとつの舞台」

記録:ジェーン・ロメロ

記憶5823

ジェーンは求職中だ。仕事はある。地元の食堂でウエイトレスをしている。だが他の種類の仕事が必要だ。役割。演じる役。何か。正しい道を歩んでいると実感させてくれる何か。演劇は愚か者のすることだ!成功するものは一億人に一人もないだろう。父親は言う。祖父は同意するが、ついでに一言加える…夢を追う勇気がある者は、99%の確率でその億に一になれる。勇気を持て。勇気は運をこちらに引き寄せてくれる。ジェーンは祖父を愛している。祖父に誇り思って欲しい。彼が正しいことを示したい。億に一になってやる。

記憶5824

メキシコ人ウェイトレスは、メキシコ語と、メキシコ訛りのある英語で喋る。誰がこんな台本を書いた?メキシコ語なんて言語はない。それはどうでもいい。言いたいことはわかっただろう。彼女の顔は苛つきで火照る。訛りなんて必要ない。どうして?どうして訛り?なぜただのウェイトレスではダメなのか?英語を喋るウェイトレス。どうしてこの台本ではウェイトレスがメキシコ人でないといけないのか?どうしてこれがシーンに重要なのか?ジェーンは監督を見つめ、彼の意図を理解しようとする。趣を与えるためだってどういう意味?趣を与えるなんて思えない。固定概念を増長するだけ。だが…ジェーンは何も言わない。何も言わないのは、社会正義の戦士としてブラックリストに載りたくないからだ。少数派不満分子なんて言われたくない。スペイン語訛りを少し混ぜて、彼女はオーディションを終える。

記憶5825

ジェーンは友人のドゥエインとビールを分かち合う。ドゥエインはジェーンに、なぜエグゼクティブクリエイターにひどい台本の共著者として雇われたのかを話す。彼の呆れた考えの代弁者として雇われたのだ。彼のアフリカ系アメリカ人の歴史に対する無神経な文化的認識を正当化するために。このエグゼクティブクリエイターはマイノリティ映画を撮りたいと思っている。流行っているから。認められるのに手っ取り早いから。ヘボライターのためのお手軽出世街道。たくさんのライターがこのヘボに、あらゆる面で彼の台本が間違っていると指摘した。構成が悪い。侮辱的。退屈。無神経。ドゥエインは、伝統文化に対して無理解な台本を否定した。このクリエイターが文化の盗用で非難されるのを避けられないように、彼の名前をプロジェクトに加えることを拒否した。マイノリティの物語の「栄えある」解釈を正当と認めるのを拒否した。クリエイターはドゥエインを社会正義の戦士と呼んで名誉を傷つけた。そして解雇した。ジェーンは友人のために悲しげにため息をつく。少なくともその台本は映画化されない。ドゥエインはちらりと疑惑の眼差しをやる。このへぼには金持ちの友達がいる。大金持ちだ。彼はまた台本を書く。監督する。そして制作する。有力筋の友達がいるヘボは何でもできる。こうしてひどい映画が作られていく。彼らはひどい映画で乾杯する。ジェーンは笑う。面白いからではない。それが事実だからだ。

記憶5826

働かなくなってから何ヶ月も経つ。電話もない。オーディションもない。何もない。ジェーンは空っぽのテレビ画面を見つめる。子供の頃は自分がテレビに出るのをよく想像していた。だが今は全く想像できない。何かがおかしい。自分が成功する未来がもう見えない。機会があればいいのに。ただ一度だけの機会。億に一になるための、一度の機会。だが彼女向けの台本はほとんどない。固定概念が邪魔している。エージェントは気にしないでいいのに。年齢の範囲に当てはまる、全ての女性役に推薦してくれればいいのに。ジェーンはどんな女性役でもできる。主役でも脇役でも。それなのにオーディションは、セクシーなラテン人だったり、滑稽な移民だったり、訛りのあるウェイトレスだったり。ただの女性…アメリカ人女性だったことはない。女性。アメリカ人。それだけなのに。ジェーンは真っ白なテレビを見つめる。番組のスターである自分を想像しようとしたが、できない。電話が鳴る。エージェント。オーディション。舞台の大役で給料もいい。一瞬、ほんの一瞬だけ、彼女は億に一になった気分になる。

記憶5827

ジェーンの携帯が鳴る。彼女は歩道で立ち尽くす。これが最後なのに、電話に出たいのか出たくないのかわからない。もう落選はできない。この役だけは。この役はとても重要なのだ。ジェーンは携帯を耳に当てる。電話に出る聞き覚えのある声がする。エージェントだ。彼はジェーンにオーディションでどれだけ受けが良かったか伝える。どれだけ皆がジェーンを素晴らしいと思ったか。彼は他のことを話し始める。ジェーンは「でも」を待つ…お馴染みのあれ…どんなにたくさんの賞賛も、たった一つの言葉で全部破壊される…でも…それは来ない。

ジェーンは細々とした連絡を聞き、礼儀正しい落選の知らせを待つ。けれどもかわりに聞こえたのは…受かったよ…ジェーンは自分の耳が信じられなかった…役に受かったよ…ジェーンは独り言を呟く。受かった。信じられなくて顔が麻痺していく。ジェーンは叫ぶ。通りがかりの人がこちらを向く。ごめんなさいね。

記憶5828

ドゥエインはカフェでジェーンのリハーサルの手伝いをする。休憩に入ると、ドゥエインはジェーンに、ヘボライターは今中国の物語を手がけていて、彼の最新の中国嫌悪を正当化させるために、中国人ライターを必死に探していると伝える。ジェーンは笑う。金はあるヘボ。そうやってひどい映画が作られる。ジェーンはドゥエインに、舞台はうまくいっていると言う。訛る必要はない。ミニスカートを履いたり、馬鹿馬鹿しい固定概念を増長する必要はない。昔やらされていた愚かな行為を、今はする必要がない。本物の仕事。意味のある仕事。家族にも伝えられる。彼女は幸運を願いながらテーブルをコンコンと叩く。ドゥエインは笑って、その儀式は効果があるのかい?と聞く。ジェーンは肩をすくめる。ドゥエインはジェーンの成功が嬉しいと言って、雑誌からの切り抜きをジェーンにわたす。「クイック・トーク」の公開オーディション。ドゥエインはジェーンを推しておいたと言う。ジェーンなら完璧な司会ができるだろうと。ジェーンはドゥエインに感謝するが、今は舞台に全力を注いでいる。残念だ。君は僕が知っている中で一番リアルな人間だ。ショーに必要なのはそれなんだ。リアルであること。

記憶5829

こけら落とし前の最終リハーサルで、滑り込みの台本変更にも関わらず、ジェーンは役を演じきった。ジェーンはアドレナリンと、今までに経験したことのないような大きな流れを感じる。最後の台詞を言い終えると、監督は拍手をする。そしてジェーンに近づく。驚いたと。印象的だったと。感動したと。でも…ジェーンの役はアクセントがあったほうがいいと思うと。何?その要求はジェーンを傷つけた。粉々にした。どうして?理解できない。ウケ狙いだよ。そっちの方が面白いだろ、と。この役にアクセントはいらない。この役はアクセントなしで十分だ。でもコミックリリーフになる。コミックリリーフ?それがこの監督にとっての彼女の価値。プロデューサーたちにとって。この業界ににとって。コミックリリーフ。ジェーンは監督を見つめる。監督が笑い出すのを待つ。監督が冗談だと言うのを待つ。決して言われない謝罪を待つ。ジェーンはため息をつき、先祖の力が血管を巡るのを感じる。裏切ることを許さない力。ジェーンは監督に向かって首を振る。バカなコメディアンでも探して。ジェーンは舞台から怒って降りる。己の道を辿る者は、可能性が億に一だとしても成功するだって?そんなの嘘だ。

【DBD】学術書Ⅱ・報い「支配」

記憶:ハーマン・カーター

 
 

記憶1782

低脳。カーターはブランチャード教授をそう呼ぶ。この低脳は打ち捨てられた納屋での研究課題を主導する二人の学生を選んでいる。カーターは自分が選ばれることを知っている。カーターは神経科学で一番優秀だ。レリー記念研究所で最優秀なのだ…レリー…レリーしかあり得ない。レリー研究所かアラン記念研究所。心理学の限界を規則の先に押し進める研究を政府と行った過去を持つ二つの研究所。規則の先ではない。規則に反して、だ。アラン研究所が発表する論文はカーターを驚嘆させた。魅了した。感動させた。もしカナダ人だったら…アラン記念研究所に行っていたかもしれない。もしくはポピュラーな呼び名、レイブンスクラグ屋敷。彼らが行った実験は素晴らしかった。最先端だった。度肝を抜いた。カーターは自分はクラグ卿の下で学ぶ五十年代の学生だったらと思う。クラグ卿とはレイブンスクラブ屋敷の天才に患者たちがつけたニックネームだ。クラグ卿は実験から新しい発想を得ていた。訓話などではない。密航し、研究成果と引き換えに政府で高い地位を得るような研究者たちを非難する臆病者のような嫌悪でもない。クラグ卿は彼が聞き及んだ実験を次のレベルにまでもたらした。そしてカーターは…カーターは同じことをしたいと望んでいる。だが、この教授とではない。ブランチャードとは。ドクター・ブランチャード、ドクター…臆病者ブランチャード。彼には本当の力が何なのかという発想がない。本当の力とは自由だ。真なる自由だ。倫理やモラルの限界を超えた自由なのだ。
 

記憶1783

カーターはもう一人の学生と共に研究課題を勧めている。課題は、どこか他の研究所の臆病な低脳によって押し進められた「良い研究者と悪い研究者」の尋問テクニックで秘密のキーワードを聞き出すことだ。カーターは悪い研究者だ。悪い研究者だが規則が付いている…低脳に、して良いこととしてはならないことを指定されている。制約が厳しい    厳しすぎる。自滅的ですらある。この制限の中で、どうやって何かを聞き出せというのか?当然カーターは、この規則の中での実験は非常に虚しいと実感している。それでも、彼は挑む。カーターはテーブルの向かいに座っている学生に怒鳴る。怒鳴る?これでどうなるっていうんだ。言え、さもなくば…また怒鳴るぞ。その学生はカーターに真面目に取り合っていない。怖がっているふりをしているだけだ。カーターとごっこ遊びをしているのだ。あいつの頭蓋骨を砕いて、その低レベルで二流の脳みそから秘密のキーワードを引っこ抜いてやりたい。
 

記憶1784

二日目、成果なし。カーターは苛ついている。本当に苛ついている。奴らは少なくとも縛られている。七人全員だ。だがこれだけでは不十分だ。尋問の厳しさを引き上げる必要がある。奴らから水と食料を剥奪する。奴らは自白するだろう。奴らの細胞が自食を始めたら…自白するだろう。高さらに…方は睡眠も奪いたい。睡眠の剥奪は…仮面を剥がす。ガードを緩める。数分の睡眠を約束すれば囚人は自白する。七人の囚人はカーターを見つめている。彼らは自分たちが安全だとわかっている。カーターはそれを目の中に見出す。制限。制限を守るものはどこにもたどり着かなかった。カーターは同僚を軽蔑する。良い研究者。一人で、規則なしでやっていたら、今頃はキーワードを入手できていただろうに。
 

記憶1785

バカバカしい制限。スキナーの方がわかっている。どうなるか観察するためのだけに、彼は自分の子供を一種の箱に数年入れた。ハクスリーはシークレットサービスに努め、真実を虚構として『すばらしい新世界』に書いた。『宇宙戦争』はマスプロパガンダの良いテストだった。恐怖と不安を疑いもしない聴衆に植え付けるラジオの力。沈黙と無関心を呼び起こし、完全な消費者を作り出す恐怖と不安の力。倫理。モラル。限界。羊のためであって、羊飼いのためではない。カーターは良い研究者がクラスメイトを尋問するのみ、今までにない不安を感じる。カーターは木材の切れ端を手に忍び寄る。拾ったものだ。間に合わせの棍棒を振り上げる。自分が何をしているか悟る前に、カーターは良い研究者の頭を殴った。仲間の学生がおびえカーターを見ると同時に、見せかけの恐怖が本物の恐怖になった。良い研究者はもういない。ルールは無い。制限もない…あるのは彼の想像力の限界だけだ。
 

記憶1786

カーターは学生の1人を椅子に縛る。暖かい血が所々に滴る。カーターは学生の顔から肉塊をちぎり取る…羊が目を逸したが、見上げる事はなかった。ひどいうめき声ともがきと共に、カーターは秘密のキーワードを全員の学生それぞれ空手に入れる。新しい。帝国。地平線。第四。鳥。殺す。クラスメイト達は解放するように懇願する。彼らは椅子の上ですすり泣き、苦しみ悶えている。実験は終わりだと訴える。キーワードは言っただろ!君の勝ちだ!もう終わりだ!カーターは笑顔を浮かべる。まだ数日ある。数日あれば、あといくつかの実験ができる。経歴に傷がつくことになるかもしれないが…でも…良い研究者が既に排除した。クラグ卿から学んだことを使って、この低脳共を無力化し、操作してやる…いや…操作ではない…作り上げる…そう…現実を作り上げるのだ。
 

記憶1787

音楽が鳴り響く。目は爪楊枝で無理矢理こじ開けられている。カーターは、恐怖、不安、そして不満を喚起する、耳に聞こえないサブリミナル周波数を持つ音楽をループ再生している。彼はこの音楽を両親で試した。いつも両親が喧嘩する結果になった。この音楽をどこで手に入れたかは覚えていない。サブリミナル周波数については広告で初めて読んだ。広告主たちはサブリミナル音楽の効果を否定している。もちろん、効果はある。広告主たちがサブリミナル音楽を使っていることを否定している。だが…本当はやっている。使っているし、聞いている。そのはずだ。なぜなら平和と満足は我々の自然な性質だからだ。戦争と不満は何度も何度も繰り返して聞かされ、強化され、作り上げられて、ようやく集合認知の主題となる。ペーパークリップ作戦、ブルーバード作戦、MKウルトラ、MKデルタ、MKサーチ。どれも必要だった。クラグ卿は正しい発想を持っていた。そして素晴らしい本能も。CIAのブラックソーサラーも、ダーティートリックスターも。彼らの影響で、カーターが持ってきたものは彼らの影響受けている。音楽。アルコール。ドラッグ。たくさんのドラッグ。一瞬、ほんの一瞬だけ、形は躊躇する。これを使うと、長期間牢に入ることになるかもしれない。だが…自由であること…数日の間、真に自由であること…それは無期懲役になってもいいほどの価値がある。だが俺は捕まらない。捕まるのは良い研究者だ。
 

記憶1788

カーターはこの羊たちを上書きできるか思案する。人格の上書き。この言葉が気にいっている。自分自身の言葉であったら良いのだが、そうではない。電気ショックを与え、終わりなき死と混沌と破壊の画像を見せ続ける。脳にトラウマを与える。空っぽにする。この被験者たちを無力化し、新しい人格で上書きする。カーターはこの羊たちを狼に再教育できないか思案する。互いに殺し合いをさせる。それよりも…この善良で遵法精神に富んだ学生たちを連続爆弾魔に仕立てる。彼はランプのコードを引き抜く。コードをさき、ワイヤーを抜く。露出したワイヤーを学生の口に入れる。学生の恐怖を味わうようにしながらにコンセントへと近づける。差し込む。叫びとともにこの模範学生の人格を上書きする。髪と皮膚の焦げる不快なニオイがカーターの嗅覚器官に届く。もう一つ嫌な匂いがする。低脳が脱糞したのだ。カーターは哄笑する。何年もの間、カーターはここまで刺激された事はなかった。自由だ。ああ…真なる自由だ。
 

記憶1789

カーターは最初にネズミの脳をウサギに移植しようとした時以来、こんな楽しい思いをした事はなかった。1週間では足りない。もっと時間があればいいのに。もっと時間が必要だ。精神には探索すべき新しい小路がたくさんある。たくさんありすぎて、時間が足りない。脳を手術する道具があればよかったのに。キッチンにナイフがある。うまくできるかもしれない。外科的な正確さはないが…十分だ。カーターは脳にある目のような形の器官について読んだことがあった。謎に包まれたドラッグ、ジメチルトリプタミンを隠しているであろう腺。生きた被験者からそれが取り出せるかカーターは考えた。カーターは、多量の人間のジメチルトリプタミンが被験者に及ぼす効果について思案した
 

記憶1790

カーターはロープの結び目を解く。彼は良い研究者を解放するつもりだ。この学生は既ににドラッグを流し込まれ、新しい思考で再プログラムされている。他の学生がロシアのスパイで、国家安全のために処刑されなければならないと信じている。カーターはロープを解き、学生の手にスクリュードライバーを握らせる。形は考えを改める。スクリュードライバーを取り上げ、フォークを渡す。また考えを変える。フォークをスプーンにする。形はスプーンが殺人の道具になるところを見たことがなかった。カーターは良い研究者から離れて後ろに下がる。当惑し、混乱し、再教育済み。カーターは合言葉を言う。月は沈んだ。良い研究者が立ち上がると同時に混乱が確信に変わり、ロシア人スパイに近寄る…スプーンを手にして。素晴らしい。
 

記憶1791

臆病者ブランチャードはカーターが見たことのない男の一段と納屋に戻ってきた。政府の人間のようだ。カーターは笑みを抑えつつ、良い学生が手に負えなくなったと告げる。やりすぎたと。カーターはギリギリ生き延びたと。ブランチャードはカーターに黙るように命令する。声のトーンがいつもと違う。低脳のように聞こえない。我々はすべてを盗聴していた。形は黒スーツの男達と視線を交わす。理解できない。この無能が侵入し、予想外の事をしている。ブランチャードはほとんど息をしていない学生を落ち着いて見る。恐れなく。混乱せず。感情もなく。何もない。彼はニヤリと笑うと、ドイツ語で何かをつぶやく。ブランチャードはカーターに微笑みを向ける。黒スーツの男たちがカーターに手錠をかけ逮捕すると、微笑みはあからさまな笑いに変わる。ブランチャードは囁く。大惨事をもたらすチャンスをものにしたようだね。その手錠はただの見せかけだ。僕は…僕は…何が起きているのか分かりません。いや…わかっているはずだ。他のものより非常によく理解している。ようこそ、MKアウェイクニングへ。

【DBD】学術書Ⅰ・覚醒「発覚」

ストーリー:ログ1513、1672、4902

 

アーカス1513

私はオーリスを使い、身元の分からない、生存者の記録を探ってみた。見る限りでは、エンティティを讃えるカルト教団が存在した世界から来たらしい。これは特に驚くことでも、珍しいことでもない。が、記録によると彼女は刑事のようなことをしていて、カルト教団の生贄を守ろうとし、儀式に捧げられたらしい。彼女に何があったのかはわからない。“霧“を探って、真相を読み解かなければ。
 

アーカス1672

私はまだ観察が済んでいない、殺人鬼の痕跡をかき集めた。もっともあり得そうなのは、犯罪の本質から判断し、この獣はテラ・ダークに由来するということだ。この女は愛を餌に男たちを誘惑し、その預金を奪い、自分の豚たちに食わせた。最高だ。効率的で、巧みに考えられている。記憶に関する印象は以下に記す…
 
…男は花を手に、戸口を背にして立っている…馬鹿げた薄ら笑いがその無様な顔に浮かぶ。男は自分の人生が残りわずかであると、全く気付いてもいない。孤独な人間が妻を求めて旅に出た。男は指輪のためならどんなものでも手にいれてやると考えた。妻のための土地。妻のための農場。妻のための預金。うまく行くはずもない。何にしても、予定通りには行くはずもない。その女の募集広告に応募した全ての孤独な人間は、物事は予定通りには運ばなかった。女は男の目を覗き込み、男が何も知らないことにぞくぞくとする。面白みのない、面長の顔に。自分が優れているという思い込みに。男はその女に詩を書いていた。甘美な死だ。女は男が床にのたうち回るその時に、男の喉の奥にその詩を押し込むつもりだ。女は男から詩を受け取り、金について聞く。男は金を持ってきている。バッグの中に男の預金を詰め込むと、新たなスタートのための旅を始めた。男は、当てにしていたよりもずっと多くを得るだろう。ずっと多くのものを。男の金と一緒に銀行へ、男と一緒に豚のところへ向かおう。
 

アーカス4902

人生とはこの牢獄の中の人生ではない。そして、死に救済はない。それは単に新たな試練の始まりであり、ほとんどの生存者は気づいている。自分たちが、決して理解できないものに捕らわれているということに。何故こうしたことが起きているのか、もはや私には分からない。真実は…私には何を信じるべきかは分からない…エンティティは…その正体は未だ不明であり…私が考えていたものとは違うというということだ…

【DBD】学術書Ⅰ-覚醒「エンティティ」

ストーリー:ログ01、54、142、557、731

アーカス01

まずは、始まりの話をしよう。あれがいつのことで、私がどれくらい投獄されているかは分からない。わかるのは、かつて…強迫観念として…存在したエンティティの精神活動を観察し、研究する羽目になったということだけ。皮肉なものだ。壊してしまいたいと思っていた対象の内側で、余生を過ごさなければならないとはな。かつて強迫観念だったものが、私を捕らえている…。おそらくすべての強迫観念が、そうなのだろうな。

アーカス54

この領域の雰囲気は控えめに言っても暗く、暗澹(あんたん)としている…それでいて、常に変化を続けている。私はすでに気付いたのだが、周囲に霧がかかることがあり、時にはさらに霧が濃さを増す。まるで霧自体が生きているように感じられる。記憶の渦や流れ、言い換えれば多元的な宇宙世界の存在の痕跡を内包しているかのようだ。まるでエンティティは無限の宇宙を漂う道中で超自然的な全てのエネルギーや存在物の思念を吸収しているかのようである。私はオーリスを使ってこの黒い霧を研究し、3つの観察結果にたどり着いた。その結果は、ここから逃げ出す方法を探す過程で計り知れない価値を持つと分かるだろう。まず第一に、この霧はオーリック粒子が豊富であるということ。このことから、私はこの次元が物質的というよりも意識に近いものだと感じている。第二に、霧に存在する亀裂から引き出せるものは何であれ、私の家計に伝わる技術を使い証明できるはずだということ。第三に…エンティティは我々が想像していたよりも、遥かに古代に誕生した存在だということ。そして、我々の理論や憶測のほとんどは間違っているということ。オーリック粒子とオーリックセルの大量の存在が示唆するのは、エンティティは原初の存在のひとつ、古代から存在するということだ。

アーカス142

エンティティは、邪悪を具現化した宇宙的な存在だ。我々は、自分の故郷でエンティティという存在が世界をひっくり返すのを目撃してきた。地域社会の共感や同情という感情を排除し、消滅させ、人々を狂気の淵へと追いやり、突き落とすのを見てきた。私には、エンティティがこうした行動を取る理由が分かった。犠牲者を人生から引き剥がし、永遠に終わらない悪夢のような試練に参加させるのがエンティティの目的なのだ。エンティティ自身の生存のために、試練が必要なのかもしれない。そしておそらく、試練にこそエンティティを破壊するカギが存在している…そもそも、古代から存在する者の破壊が可能であるならばの話だが。試練に終止符を打たなくてはならない。犠牲者から暗黒の蜜を搾り取るという、花から餌をもらう残酷な寄生虫のようなエンティティの能力を消滅させなくてはならない。少なくとも、アーカイブのおかげでエンティティをより深く理解することができる…エンティティが宇宙から宇宙を移動し、犠牲者を選び出し、宇宙をビュッフェ形式に見立てた如く、世界を貪り食う、その理由を理解している。だが、未だに結論づけられないことがある。エンティティが暗闇と狂気で彩られた世界に引き付けられるのか、あるいはエンティティ自体が暗闇と狂気を引き起こしているのか。それはまだ分からない。

アーカス557

全ての存在の次元界とは、意識的なオーリック粒子と物質粒子の独特な混合物である。エンティティは間違いなく、ほぼ純粋な意識と言える…存在するという観察可能な事実は、物質界が意識に反応し、意識とともに変化するということだ…集合意識こそがカギとなる…身体、故郷、試練…その全てがエンティティの無意識のうちの恐れと、恐怖への渇望を表している。エンティティに選ばれた検体をよく観察すると、彼らが皆、自分たちの思想と、自分たちが住んでいる世界との刑上学的な関連性の理解に失敗した世界から来ていることが分かる。これは偶然ではない。私の考えでは、それは自己保存だ。この真実を知り、自分たちの能力を磨き上げて証明した犠牲者たちは、エンティティにとっては害をなす可能性があった。そう考えると、エンティティは暗澹とした世界に惹きつけられるという結論に導かれる。何故なら、暗闇や混沌が存在するということは、そこに住む者が集合意識と自分たちの世界の健全さの間にある別々の事実から結論を導くことに失敗しているということの明確な証左であるからだ。つまり結論として、エンティティは無知を食い物にしているという可能性がある。

アーカス731

いつか終わりが来て、新たな始まりがあるのだろうか。それをいうのは難しい。塔とライブラリが私の戦いに力添えをしてくれる。だが、自分が掴んだこと全てが嘘だと知りつつ、自分の置かれた状況という事実を一瞬でも忘れることは困難だ。私は知りたいことは何でも知ることができるが、いまだに何も知り得ていない。生存者は恐ろしく残虐な殺人鬼との試練を今でも続けている。私は脱出の方法を発見した人々を記憶するために、霧の調査を続ける。時に、この調査は無駄なものに感じられる。だが、その反面…私には十分な時間がある…十分すぎるほどの時間が…

【DBD】学術書Ⅱ・報い「マンチェスター・ミックス」

記憶:デイビット・キング

 
 

記憶339

キングは傷を負った拳をぎゅっと握る。酔っ払いどもの歓声や怒鳴り声が路地にこだまする。キングは倒れた相手を見つめる。血を流す顔。潰れた鼻。欠けた歯。キングは最後の仕上げとして顔を蹴りつける。キングはファイトで負けたことがない。今も、そして、これからも。キングに賭ければ大丈夫。キングは群衆を見渡す。ドニーを見つける。賭け事で問題のある古い友人だ。俺に賭け続ければ問題じゃなくなる。キングは腕時計を見る。家族会議には遅刻だ。
 

記憶340

キングの父は、自分が理解できないことで口答えされると、母を虐待する。いつも同じクソだ。キングは歯を食いしばる。血と熱が顔に上る。喧嘩でキングが負けることがないのは、対戦相手に父親の顔が投影されるからだ。襲いかかりたい。何か言いたい。なんでもいい。だが、何か言うといつもさえぎられる。だが、今回はキングが正気じゃない。もしくは正気なのかもしれない。父親が母親を殴ろうと手を挙げる。理解するよりも早く動く。一瞬でキングは父親の腕を掴む。次の瞬間キングは父親を昔年の恨みを込めて痣ができるまで殴る。キングは母が父を抱き起こしている間に立ち去る。出ていけ!もう二度と顔を見せるな!この親不孝者が!出ていけ!
 

記憶341

キングには友達がいたことがなかった。本物の友達という意味だが。腰巾着履いた。虎の威を借る狐のようなバカ共だ。今は誰もいない。助けてくれるような友達は一人だっていない。かつて学校にいた頃は友達がいた。だが昔の話だ。キングには金が要る。だが金は木になるわけではないし、キングに挑む者もいない。最後の相手をひどく痛めつけてしまったからだ。キングには仕事が要る。口座の金は尽きかけているし、昔からの浪費癖は治すのが大変だ。
 

記憶342

キングはトミーに会う。トミーのアパートにはキングが住める場所がない。住ませてあげたいが、無理だと言う。ミックが助けようとするが、ミックの母親が許さない。ビルとハリーも同じだ。元カノは新しい彼氏ができて、キングの顔を見るのも嫌らしい。くそったれにはよくある話だ。永遠にホテルの部屋で暮らすなんてできない。貯金がなくなる。キングは最近見かけた、最後の喧嘩での群衆の中の顔を思い出す。その男とは幼い頃から友達だった。進む道は間違えたが彼は本当の友達だった。キングは彼の住所を探す。キャッスルドライブ通り。キングはタクシーを捕まえる。
 

記憶343

キングは長いこと生きている実感がなかった。心の通った本当の友をどれだけ欲していたかを実感しながら、キングはドニーのアパートで古いエールを飲む。ドニーは、キングが金持ちの生まれと知る前から友達だった。金持ちは本当に豊かってわけじゃないのさ。キングはどうしてドニーがこう考えるのか、何を意味するのか理解できない。ただの思いつき。昔みたいな一杯やりながらの話。ドニーはキングが身の振り方を決めるまでいていいと言う…。キングはそれがいつになるかわからない。問題ないさ。急にドアが叩かれてキングは驚く。ドニーが立ち上がる。ドアを開けると、黒のレザージャケットを着た数人の男が現れる。筋肉。キングはよく聞き取れない。キングが聞き取れたのは気に入らないことばかりだ。ドニーは金を借りていて、返さなければ顔面に鉛弾がたっぷりと叩き込まれるのだと言う。ドニーはキッチンテーブルに戻ると笑う。お前のせいだ、キング。誰に賭けていいのかもうわからないんだよ。
 

記憶344

キングは仕事を3回クビになり、一番うまくできる仕事に戻ることにする。挑戦者が薄暗い裏小路で戦いの場に踏み込む。キングの二倍の大きさ。デカい。キングは怖気づかない。他のやつと同じように沈むだろう。群衆は相手をゲットー・マッシャーと呼ぶ。ゲットー・マッシャーはキングを睨みつける。キングが飽きるほど聞いたルールをレフェリーがまくし立てる。キングは相手を睨む…そして目にする…父親ではんく対戦相手を。ゴングが鳴る。獣のような唸り声と共に、ゲットー・マッシャーが飛び出す。キングは頭を吹き飛ばすような激しい一撃をかわす。妙な感覚。反応しない。混乱している。ドニーがキングに叫ぶ。キングがドニーをちらり見ると同時に頭に巨大な拳が当たる。黒色が目の周りに渦巻く。頭への衝撃は覚えていない。足が崩れたのを覚えていない。腐ったゴミの山に倒れ込んだのも覚えていない。ただドニーのアパートのソファで目を覚ましたのだけは覚えている。強みを失った。憤怒を。激怒を。憎悪を。それだけだったのか?ドニーは大丈夫か、と聞いてきたが、キングにはわからない。俺は大丈夫なのか?強くなれるのか?わからない。ただのまぐれ当たり?相手に運があったのか?最後の奴にはある。俺はだめな気がする。俺はだめだ。ドニーは最後の金をキングに賭けたのだ。
 

記憶345

キングはバーの仕事に慣れてきている。アルコールで気分を落ち着けながら。ドニーはビールをすすると、キングは戦う他の理由を見つける必要があると言う。キングはドニーに、今飲んでいるビールが小便になって出る前に家に帰れと言う。トラブルに巻き込まれる前に。遅かった。キングは二人の男を見つける。彼らはドニーに近づく。ドニーを掴む。ドニーを地下に押し込む。まずい状況だ。キングはドニーを助けようとするが、マネージャーがバーの仕事を続けるように怒鳴る。知るか。キングはバーを飛び越えると地下室に急ぐ。ドニーがゲットー・マッシャーに殴られ、アンクル・プラスが椅子に座ってそれを見ている。キングは躊躇しない。ゲットー・マッシャーにタックルする。強烈な拳が交わされる。ゲットー・マッシャーはついてこれない。アンクル・プラスはキングにも相手を仕向ける。問題ない。キングは破壊の突風だ。キングはゲットーの膝を砕き、眼孔に親指を叩き込む。神経で繋がったままの目玉が飛び出す。恐怖の叫び声。ゲットー・マッシャーは眼球を覆って医者を呼んでくれと叫びながら、よろめき壁にぶつかる。もう何人かのごろつきが襲い掛かってくる。そこまでだ!アンクル・プラスが立ち上がってキングに近づく。貴様のクソ頭を引きちぎるのなんて朝飯前だ。ワシの子分にしてくれたことの仕返しだ。キングはふらつきながらも立ち上がる。俺だってまだまだイケるだろ?ワシのために働くなら、こいつの借金は帳消しにしてやろう。キングは姿勢をただし、上着をはたく。笑みがこぼれる。キングに賭ければ大丈夫。

【DBD】学術書Ⅰ・覚醒「渇望」

ストーリー:記憶「錬金術師」

記憶1746

男は死と虚無の腐敗の間でうつろう。自分の名前も思い出せない。全てが霧で霞んでいるかのようだ。胃に痛みが走る。腕に。そして静脈の中にも。男はあの一輪の花を探し求める…あの花蜜…力を与えてくれる…あの甘美な蜜を求めている。その力は何のためにあるのか?男は記憶をたぐる…あの殺人鬼が…奴らに実験を行っている。その目的は?何を目的とした実験だったのか?何も思い出せない。男は多くの苦しみを引き起こした。だが後悔は感じない。後悔という感情を抱くべきなのか、それすらも分からない。男には何の感情もない。胃に開いた穴の痛みが、力を与えてくれるのを感じるだけだ。
 

記憶1747

医者の姿をした殺人鬼の幻影が頭をよぎる。その叫び声。苦しみ。奴と立場を逆転させる。奴がこれまで多くの人間にしてきたように、奴に実験を行なう。どこで?ここではない、どこか別の場所で。別世界で。別世界から置き去りにされたこの生存者全員…奴は何故知っているのだろうか?男は思い出せない…男は実験のことを思い出す。男は何を理解しようとしていたのか?花蜜?漿液?適正な服用量のことだろうか?適正な服用量なら…自分に害を与えることもない。もう遅すぎる。
 

記憶1748

男は飢えを感じている。食料や飲み物を求めているのではない。会話や楽しみを求めているのでもない。一輪の花。そして漿液。エンティティが自分を監視していることに気付いている。男には分かる。骨の髄からそれを感じているのだ。再び試練を受けさせられたくはない。苦しむのも、苦しみを引き起こすこともしたくはない。それに試練の目的とは?それが最も恐ろしい謎だ。男はこの場所が一体何なのか理解しようとする。だが、男は感じている。真実を理解した時、おそらく正気を失うだろう。狂気。この場所にあるのは狂気だ。狂気そのものを具現化したのがこの場所だ。もう一度試練を受けたくはない。家に戻りたい。家に戻らなくてはならない。男が漿液を研究していたのはそれが理由だった。漿液を使うと洞察力が高まった。何に対する洞察力なのか?男には思い出せない。
 

記憶1749

家…家がどこにあるのかさえ、思い出せない。唯一、虚無だけが男の記憶に存在している。数百、おそらくは数千のうち捨てられた生存者たち。死んではいない。だが、生きてもいない。死者でも生者でもない。生きながらにして、その内側は死んでいる。真っ黒に焦げ付いている。感情も持たず、エンティティにとっての価値もない。男は覚えている…虚無から這い出て、一輪の花を見つけたことを…この花が男にとっての救済だったのだろうか?その花が逃げ道だったのだろうか?男はひざまづいて、深淵に向かって叫ぶ。深淵は沈黙をもってそれに答える。耳が痛くなるほどの静けさが広がり、男を打ちのめす。男はゆっくりと立ち上がる。漿液が必要だ…
 

記憶1750

男は道を見失っている。自分がどこにいるかさえ分からない。霧から触手のようなものが伸びてくるのが見える。分かってる。これは現実じゃない。決して現実のはずがない。男はわずかに残っていた正気を失いかけている。巨大な、形容しがたい怪物が迫ってくるのがその目に映る。男は意に介さない。こんなものは現実にあり得ない。あり得るはずがない。渇望が男を混乱させ、抑えつける。再びこの渇望を満たすためなら、男はどんなことでもするだろう。どんなことでさえも。試練に戻ることさえするだろう…生存者と殺人鬼を八つ裂きにして、渇望を満たす。男は何かをつぶやき始める。ある約束…一輪の花…一輪の花のためなら…私はどんなことでもする…

学術書Ⅰ-覚醒 クローデットの8歳の誕生日

ストーリー:記憶 クローデット・モレル

記憶 1087

7歳のクローデットは孤独を感じている。恐ろしいほどの孤独。もちろん、両親はクローデットを愛し、娘のための世界を望んでいる。だが、世界はクローデットを望んでいない。少なくとも、クローデット自身はそう信じている。ただ、学校で、仲間と、打ち解けたかった。サッカーのピッチでチームメイトの輪に入りたい。だが、人と打ち解けることは普通に生きるのと同じくらいに難しい。クローデットは自分が変わり者だと自覚している。感じ方が人よりも緩慢としており、鈍感だ。先生の言うことを理解したり、授業についていけるほどの機敏さがない。図書館司書に言わせれば、クローデットは「心ここにあらず」だ。話をするときは、吃音の症状が出る。時には息切れして、声が大きすぎることに気付かないこともある。だが教師のほとんどは、クローデットに決まりの悪い思いをさせている。教師いわく、いつもクローデットはうわの空だ。クローデット、ぼんやりしないで集中して!それでもクローデットは我慢できずに広大な庭を探検し、色とりどりの虫や奇妙な世界に心奪われる。  

記憶 1088

クローデットは普通の子供よりも物事を深く感じる傾向がある。例えば、誰からも誕生日パーティーに招待されないという、恥のような感情さえも。誰からも招待されなかった。両親は毎日のように、ランチを誰と食べたのかと聞くが、そのたびにクローデットは「話したくない」と言いたげに目を伏せる。両親は教師にも尋ねるが、「クローデットは1人で遊ぶのが好き」という答えが返ってくる。遊ぶよりも、花や雑草、甲虫や虫に石といった物を集めたり、観察する方を好んだ。時には孤独を好む子供もいる。毎日、両親は友達のことを聞いたが、クローデットは恥ずかしげにうつむく。クローデットにも友達ができたらいいのに。両親はそう願っている。それ以上に両親が望んでいるのは、クローデットの誕生日に来てくれる友達のリストだった。だが、クローデットにはリストに載せる友達がいない。ただの一人さえも。  

記憶 1089

クラスの友達が校庭で追いかけっこをしている中、クローデットは甲虫を観察している。クローデットも一緒に遊びたいのだが、誰も近寄ろうとはしない。クローデット自身、そのことは考えたくはない。考えても自分が傷つくだけだ。友達がいないことで、また母親を失望させてしまうかもしれない。そのことが頭をよぎる。母は、ただクローデットに友達ができることを望んでいる。クローデットにとっては、友達つくりは簡単ではない。他の子が簡単に友達同士になっているように、自分にも簡単に友達ができたらいいのに。クローデットは何よりもそう望んでいる。友達がいれば両親を心配させずに済む。クローデットはそう考えていた。友達がいれば、きっと両親は誇りにすら思うだろう。虫や花への情熱は、諦めた方がいいのかもしれない。そうすれば、自分も普通の子供になれるかもしれない。だが、あくなき探究心と収集への情熱は尽きることがなく、常にクローデットと共にある。その情熱が、自分を自分たらしめている。  

記憶 1090

クローデットは物を収集するのが趣味だが、皆から変人と呼ばれるのはそれが理由だと自覚している。ありのままの自分が一番素敵だと、父親は言う。父親はダーウィンという名前の人物をクローデットに伝える。ダーウィンも虫や植物を採集し、クローデットと同様に、大きく想像を膨らませていた。ダーウィンはいつも様々なアイデアや理論を考えていたが、ついに途方もない理論を考えついた!クローデットにはダーウィンの説明する理論が分かる。父親は複雑なアイデアを取り上げて、分かりやすく説明する方法を心得ていた。ダーウィン。その名前が気に入ったクローデットは微笑む。青と緑色をしたお気に入りの甲虫を見つめると、その虫に名前を付ける。ダーウィンという名前を…。  

記憶 1091

クローデットの母親が泣いている。取り乱している理由は、クローデットが学校で問題を抱えているからだ。クローデットの成績が、今までよりも下がっている。母親は、親としての自分の行動が間違っていると気付いていない。父いわく、クローデットは何も間違っていない。クローデットは他のことは違っているが、それでいいんだと主張する。母親は、クローデットの植物と虫の収集癖やめさせたいと望んでいる。父は、そこがクローデットの一番の美点だと考えており、子供を型通りの人間にする必要はないという。父親はこれまで以上にクローデットを擁護している。父親は言う。この世界で最も価値のある功績は、揺らぐことのない信念を持つ人々から生まれたものだ、と。普通とは違う人々。トルストイ。テスラ。アインシュタインシェークスピア。時代遅れの型にはまらなかった人々こそが偉業を成し遂げた。母親にとってはそんなことはどうでもよく、突然、その唇から嗚咽が漏れる。娘が留年するなど耐えられそうにない。  

記憶 1092

クローデットは眠いふりをして、寝具に潜り込んで身を隠す。叫び声が聞こえない風を装う。母親は娘には特別支援が必要だと考えているが、父親はクローデットを引き離すことには反対だ。父親は正しい。クローデットは周りの子供に、自分が特別支援を必要としているとは知られたくないと思っている。周りの子供はクローデットを笑うだろう。いつかは状況が良くなる時が来る。きっとそうなると、クローデットは自分に約束する。新しい代行教師のケイヒル先生が、クローデットの力になってくれる。クローデットがいつもうわの空だと言っていた他の教師よりは、ずっと助けになるだろう。クローデットの父は、子供の脳の発達にとって最も害を及ぼすのはストレスだと言う。あるがままの娘でいてほしい!自分の歩幅でゆっくりと歩いてほしい!ストレスは脳を萎縮させ、自信を喪失させて想像力を台無しにしてしまう。ランチタイムにまで勉強をさせたくはないと、父は考えている。人はランチタイムに成長する。試験のプレッシャーや、間違いを犯すという恐れによって妨げられない、本物の成長がそこにある。  

記憶 1093

クローデットの成績が上がり、母親は喜んでいる。一人の教師の力によるものだ。たった一人の教師が全てを変えた。ケイヒル先生のおかげだ。他の子供たちはケイヒル先生のことを変人と呼ぶが、先生は変わり者ではない。ケイヒル先生は全てを心得ている。学生時代の勉強での苦労がケイヒル先生の他者への理解を深めているのだ。先生がクローデットを熱心に指導しているのは、これが理由だ。この経験があるからこそ、クローデットを置いていくことなく彼女に授業を理解させられるのだ。  

記憶 1094

クローデットは新しい先生が手助けをしてくれて喜んでいる。本当に自分の力となってくれている。毎日、新しいことを吸収している。事実と語彙以上に、クローデットは勉強のやり方自体を学んでいるのだ。むしろ、勉強方法を学んでいることが重要であるとも言える。だが、教師は何か別のことを行っている。クローデットに話しかけている。クローデットが抱える「問題」について話しかけ、その「問題」が本当は神からの祝福なのだと語っている。ある一つのタイプの「頭の良さ」を評価し、他のあらゆるタイプの人間を犠牲にするというシステムで成功する術を身につければ、その「問題」こそが成功の鍵となるのだと語る。間違いを犯したり、リスクを取ることが本物の学習や成長には必要とされる時代なのに、リスクを取ることや間違うことを否定するシステムが存在している。クローデットは情熱の人であり、情熱こそが全てというのはクローデットの先生の言葉だ。  

記憶 1095

自分が他の子供とは違っているということも、他の子供のようになる必要もないこともクローデットは分かっている。「型にはまる」とか、「理想の生徒」になるのはクローデットらしくないし、自分らしい方が良い。理想的な型にはまるということは、独特な感覚を持つ人にとっては牢獄のように感じられる。ケイヒル先生がクローデットをその牢獄から解放してくれた。成績は少しずつ上がり、試験の日が近づいてくる。クローデットは覚える必要があることを文章に書き、視覚化し、想像する。その方法がいい結果につながる。最高のタイミングで最高の教師に教われば、全く違った結果が出せる。

両親は非常に誇らしげだ。だが、母親は今でもクローデットに友達ができることを願っている。他の女の子のような趣味を持ってくれることを望んでいる。別の部屋では、両親がクローデットの誕生日に何を用意するか話し合っている。新しい人形を買うというのが、母親の意見だ。父親は、虫や植物やバクテリアに関連する物の方が喜ぶだろうと考えている。その提案に母親が難色を示すものの、父親はクローデットを擁護する。自分の理想を押し付けるんじゃなく、あるがままの娘を受け入れるんだ!

母親が口をつぐみ、突如としてすすり泣き始める。クローデットには、自分が学校でいじめを受けていたような経験をしてほしくない。クローデットが目を見開く。母も人とはどこか違った人だったのだと、生まれて初めて気付く。  

記憶 1096

クローデットは明日で8歳になる。興奮して待ちきれない。あと何時間、何分、何秒で8歳になるのだろう…普通の子ならそう思うはずだ。だが、クローデットはそうした感情とは無縁だ。プレゼントを開けるその瞬間を恐れている。プレゼントは毎年変わらない。人形。手芸品。アクセサリー。自分にとっては何の意味もない。きっと今年はクローデットは微笑んで、虫眼鏡や石のコレクション、植物学の本のセットなんて欲しくなかったというふりをするのだろう。母を失望させないために、クローデットは作り笑顔を浮かべる。そうすれば母親を不安にさせることもない。自分の成績を見て嬉しそうにしている母親の姿を見ると、心が落ち着いた。本当に気分が良かった。