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【DBD】学術書Ⅱ・報い「支配」

記憶:ハーマン・カーター

 
 

記憶1782

低脳。カーターはブランチャード教授をそう呼ぶ。この低脳は打ち捨てられた納屋での研究課題を主導する二人の学生を選んでいる。カーターは自分が選ばれることを知っている。カーターは神経科学で一番優秀だ。レリー記念研究所で最優秀なのだ…レリー…レリーしかあり得ない。レリー研究所かアラン記念研究所。心理学の限界を規則の先に押し進める研究を政府と行った過去を持つ二つの研究所。規則の先ではない。規則に反して、だ。アラン研究所が発表する論文はカーターを驚嘆させた。魅了した。感動させた。もしカナダ人だったら…アラン記念研究所に行っていたかもしれない。もしくはポピュラーな呼び名、レイブンスクラグ屋敷。彼らが行った実験は素晴らしかった。最先端だった。度肝を抜いた。カーターは自分はクラグ卿の下で学ぶ五十年代の学生だったらと思う。クラグ卿とはレイブンスクラブ屋敷の天才に患者たちがつけたニックネームだ。クラグ卿は実験から新しい発想を得ていた。訓話などではない。密航し、研究成果と引き換えに政府で高い地位を得るような研究者たちを非難する臆病者のような嫌悪でもない。クラグ卿は彼が聞き及んだ実験を次のレベルにまでもたらした。そしてカーターは…カーターは同じことをしたいと望んでいる。だが、この教授とではない。ブランチャードとは。ドクター・ブランチャード、ドクター…臆病者ブランチャード。彼には本当の力が何なのかという発想がない。本当の力とは自由だ。真なる自由だ。倫理やモラルの限界を超えた自由なのだ。
 

記憶1783

カーターはもう一人の学生と共に研究課題を勧めている。課題は、どこか他の研究所の臆病な低脳によって押し進められた「良い研究者と悪い研究者」の尋問テクニックで秘密のキーワードを聞き出すことだ。カーターは悪い研究者だ。悪い研究者だが規則が付いている…低脳に、して良いこととしてはならないことを指定されている。制約が厳しい    厳しすぎる。自滅的ですらある。この制限の中で、どうやって何かを聞き出せというのか?当然カーターは、この規則の中での実験は非常に虚しいと実感している。それでも、彼は挑む。カーターはテーブルの向かいに座っている学生に怒鳴る。怒鳴る?これでどうなるっていうんだ。言え、さもなくば…また怒鳴るぞ。その学生はカーターに真面目に取り合っていない。怖がっているふりをしているだけだ。カーターとごっこ遊びをしているのだ。あいつの頭蓋骨を砕いて、その低レベルで二流の脳みそから秘密のキーワードを引っこ抜いてやりたい。
 

記憶1784

二日目、成果なし。カーターは苛ついている。本当に苛ついている。奴らは少なくとも縛られている。七人全員だ。だがこれだけでは不十分だ。尋問の厳しさを引き上げる必要がある。奴らから水と食料を剥奪する。奴らは自白するだろう。奴らの細胞が自食を始めたら…自白するだろう。高さらに…方は睡眠も奪いたい。睡眠の剥奪は…仮面を剥がす。ガードを緩める。数分の睡眠を約束すれば囚人は自白する。七人の囚人はカーターを見つめている。彼らは自分たちが安全だとわかっている。カーターはそれを目の中に見出す。制限。制限を守るものはどこにもたどり着かなかった。カーターは同僚を軽蔑する。良い研究者。一人で、規則なしでやっていたら、今頃はキーワードを入手できていただろうに。
 

記憶1785

バカバカしい制限。スキナーの方がわかっている。どうなるか観察するためのだけに、彼は自分の子供を一種の箱に数年入れた。ハクスリーはシークレットサービスに努め、真実を虚構として『すばらしい新世界』に書いた。『宇宙戦争』はマスプロパガンダの良いテストだった。恐怖と不安を疑いもしない聴衆に植え付けるラジオの力。沈黙と無関心を呼び起こし、完全な消費者を作り出す恐怖と不安の力。倫理。モラル。限界。羊のためであって、羊飼いのためではない。カーターは良い研究者がクラスメイトを尋問するのみ、今までにない不安を感じる。カーターは木材の切れ端を手に忍び寄る。拾ったものだ。間に合わせの棍棒を振り上げる。自分が何をしているか悟る前に、カーターは良い研究者の頭を殴った。仲間の学生がおびえカーターを見ると同時に、見せかけの恐怖が本物の恐怖になった。良い研究者はもういない。ルールは無い。制限もない…あるのは彼の想像力の限界だけだ。
 

記憶1786

カーターは学生の1人を椅子に縛る。暖かい血が所々に滴る。カーターは学生の顔から肉塊をちぎり取る…羊が目を逸したが、見上げる事はなかった。ひどいうめき声ともがきと共に、カーターは秘密のキーワードを全員の学生それぞれ空手に入れる。新しい。帝国。地平線。第四。鳥。殺す。クラスメイト達は解放するように懇願する。彼らは椅子の上ですすり泣き、苦しみ悶えている。実験は終わりだと訴える。キーワードは言っただろ!君の勝ちだ!もう終わりだ!カーターは笑顔を浮かべる。まだ数日ある。数日あれば、あといくつかの実験ができる。経歴に傷がつくことになるかもしれないが…でも…良い研究者が既に排除した。クラグ卿から学んだことを使って、この低脳共を無力化し、操作してやる…いや…操作ではない…作り上げる…そう…現実を作り上げるのだ。
 

記憶1787

音楽が鳴り響く。目は爪楊枝で無理矢理こじ開けられている。カーターは、恐怖、不安、そして不満を喚起する、耳に聞こえないサブリミナル周波数を持つ音楽をループ再生している。彼はこの音楽を両親で試した。いつも両親が喧嘩する結果になった。この音楽をどこで手に入れたかは覚えていない。サブリミナル周波数については広告で初めて読んだ。広告主たちはサブリミナル音楽の効果を否定している。もちろん、効果はある。広告主たちがサブリミナル音楽を使っていることを否定している。だが…本当はやっている。使っているし、聞いている。そのはずだ。なぜなら平和と満足は我々の自然な性質だからだ。戦争と不満は何度も何度も繰り返して聞かされ、強化され、作り上げられて、ようやく集合認知の主題となる。ペーパークリップ作戦、ブルーバード作戦、MKウルトラ、MKデルタ、MKサーチ。どれも必要だった。クラグ卿は正しい発想を持っていた。そして素晴らしい本能も。CIAのブラックソーサラーも、ダーティートリックスターも。彼らの影響で、カーターが持ってきたものは彼らの影響受けている。音楽。アルコール。ドラッグ。たくさんのドラッグ。一瞬、ほんの一瞬だけ、形は躊躇する。これを使うと、長期間牢に入ることになるかもしれない。だが…自由であること…数日の間、真に自由であること…それは無期懲役になってもいいほどの価値がある。だが俺は捕まらない。捕まるのは良い研究者だ。
 

記憶1788

カーターはこの羊たちを上書きできるか思案する。人格の上書き。この言葉が気にいっている。自分自身の言葉であったら良いのだが、そうではない。電気ショックを与え、終わりなき死と混沌と破壊の画像を見せ続ける。脳にトラウマを与える。空っぽにする。この被験者たちを無力化し、新しい人格で上書きする。カーターはこの羊たちを狼に再教育できないか思案する。互いに殺し合いをさせる。それよりも…この善良で遵法精神に富んだ学生たちを連続爆弾魔に仕立てる。彼はランプのコードを引き抜く。コードをさき、ワイヤーを抜く。露出したワイヤーを学生の口に入れる。学生の恐怖を味わうようにしながらにコンセントへと近づける。差し込む。叫びとともにこの模範学生の人格を上書きする。髪と皮膚の焦げる不快なニオイがカーターの嗅覚器官に届く。もう一つ嫌な匂いがする。低脳が脱糞したのだ。カーターは哄笑する。何年もの間、カーターはここまで刺激された事はなかった。自由だ。ああ…真なる自由だ。
 

記憶1789

カーターは最初にネズミの脳をウサギに移植しようとした時以来、こんな楽しい思いをした事はなかった。1週間では足りない。もっと時間があればいいのに。もっと時間が必要だ。精神には探索すべき新しい小路がたくさんある。たくさんありすぎて、時間が足りない。脳を手術する道具があればよかったのに。キッチンにナイフがある。うまくできるかもしれない。外科的な正確さはないが…十分だ。カーターは脳にある目のような形の器官について読んだことがあった。謎に包まれたドラッグ、ジメチルトリプタミンを隠しているであろう腺。生きた被験者からそれが取り出せるかカーターは考えた。カーターは、多量の人間のジメチルトリプタミンが被験者に及ぼす効果について思案した
 

記憶1790

カーターはロープの結び目を解く。彼は良い研究者を解放するつもりだ。この学生は既ににドラッグを流し込まれ、新しい思考で再プログラムされている。他の学生がロシアのスパイで、国家安全のために処刑されなければならないと信じている。カーターはロープを解き、学生の手にスクリュードライバーを握らせる。形は考えを改める。スクリュードライバーを取り上げ、フォークを渡す。また考えを変える。フォークをスプーンにする。形はスプーンが殺人の道具になるところを見たことがなかった。カーターは良い研究者から離れて後ろに下がる。当惑し、混乱し、再教育済み。カーターは合言葉を言う。月は沈んだ。良い研究者が立ち上がると同時に混乱が確信に変わり、ロシア人スパイに近寄る…スプーンを手にして。素晴らしい。
 

記憶1791

臆病者ブランチャードはカーターが見たことのない男の一段と納屋に戻ってきた。政府の人間のようだ。カーターは笑みを抑えつつ、良い学生が手に負えなくなったと告げる。やりすぎたと。カーターはギリギリ生き延びたと。ブランチャードはカーターに黙るように命令する。声のトーンがいつもと違う。低脳のように聞こえない。我々はすべてを盗聴していた。形は黒スーツの男達と視線を交わす。理解できない。この無能が侵入し、予想外の事をしている。ブランチャードはほとんど息をしていない学生を落ち着いて見る。恐れなく。混乱せず。感情もなく。何もない。彼はニヤリと笑うと、ドイツ語で何かをつぶやく。ブランチャードはカーターに微笑みを向ける。黒スーツの男たちがカーターに手錠をかけ逮捕すると、微笑みはあからさまな笑いに変わる。ブランチャードは囁く。大惨事をもたらすチャンスをものにしたようだね。その手錠はただの見せかけだ。僕は…僕は…何が起きているのか分かりません。いや…わかっているはずだ。他のものより非常によく理解している。ようこそ、MKアウェイクニングへ。