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学術書Ⅰ-覚醒 クローデットの8歳の誕生日

ストーリー:記憶 クローデット・モレル

記憶 1087

7歳のクローデットは孤独を感じている。恐ろしいほどの孤独。もちろん、両親はクローデットを愛し、娘のための世界を望んでいる。だが、世界はクローデットを望んでいない。少なくとも、クローデット自身はそう信じている。ただ、学校で、仲間と、打ち解けたかった。サッカーのピッチでチームメイトの輪に入りたい。だが、人と打ち解けることは普通に生きるのと同じくらいに難しい。クローデットは自分が変わり者だと自覚している。感じ方が人よりも緩慢としており、鈍感だ。先生の言うことを理解したり、授業についていけるほどの機敏さがない。図書館司書に言わせれば、クローデットは「心ここにあらず」だ。話をするときは、吃音の症状が出る。時には息切れして、声が大きすぎることに気付かないこともある。だが教師のほとんどは、クローデットに決まりの悪い思いをさせている。教師いわく、いつもクローデットはうわの空だ。クローデット、ぼんやりしないで集中して!それでもクローデットは我慢できずに広大な庭を探検し、色とりどりの虫や奇妙な世界に心奪われる。  

記憶 1088

クローデットは普通の子供よりも物事を深く感じる傾向がある。例えば、誰からも誕生日パーティーに招待されないという、恥のような感情さえも。誰からも招待されなかった。両親は毎日のように、ランチを誰と食べたのかと聞くが、そのたびにクローデットは「話したくない」と言いたげに目を伏せる。両親は教師にも尋ねるが、「クローデットは1人で遊ぶのが好き」という答えが返ってくる。遊ぶよりも、花や雑草、甲虫や虫に石といった物を集めたり、観察する方を好んだ。時には孤独を好む子供もいる。毎日、両親は友達のことを聞いたが、クローデットは恥ずかしげにうつむく。クローデットにも友達ができたらいいのに。両親はそう願っている。それ以上に両親が望んでいるのは、クローデットの誕生日に来てくれる友達のリストだった。だが、クローデットにはリストに載せる友達がいない。ただの一人さえも。  

記憶 1089

クラスの友達が校庭で追いかけっこをしている中、クローデットは甲虫を観察している。クローデットも一緒に遊びたいのだが、誰も近寄ろうとはしない。クローデット自身、そのことは考えたくはない。考えても自分が傷つくだけだ。友達がいないことで、また母親を失望させてしまうかもしれない。そのことが頭をよぎる。母は、ただクローデットに友達ができることを望んでいる。クローデットにとっては、友達つくりは簡単ではない。他の子が簡単に友達同士になっているように、自分にも簡単に友達ができたらいいのに。クローデットは何よりもそう望んでいる。友達がいれば両親を心配させずに済む。クローデットはそう考えていた。友達がいれば、きっと両親は誇りにすら思うだろう。虫や花への情熱は、諦めた方がいいのかもしれない。そうすれば、自分も普通の子供になれるかもしれない。だが、あくなき探究心と収集への情熱は尽きることがなく、常にクローデットと共にある。その情熱が、自分を自分たらしめている。  

記憶 1090

クローデットは物を収集するのが趣味だが、皆から変人と呼ばれるのはそれが理由だと自覚している。ありのままの自分が一番素敵だと、父親は言う。父親はダーウィンという名前の人物をクローデットに伝える。ダーウィンも虫や植物を採集し、クローデットと同様に、大きく想像を膨らませていた。ダーウィンはいつも様々なアイデアや理論を考えていたが、ついに途方もない理論を考えついた!クローデットにはダーウィンの説明する理論が分かる。父親は複雑なアイデアを取り上げて、分かりやすく説明する方法を心得ていた。ダーウィン。その名前が気に入ったクローデットは微笑む。青と緑色をしたお気に入りの甲虫を見つめると、その虫に名前を付ける。ダーウィンという名前を…。  

記憶 1091

クローデットの母親が泣いている。取り乱している理由は、クローデットが学校で問題を抱えているからだ。クローデットの成績が、今までよりも下がっている。母親は、親としての自分の行動が間違っていると気付いていない。父いわく、クローデットは何も間違っていない。クローデットは他のことは違っているが、それでいいんだと主張する。母親は、クローデットの植物と虫の収集癖やめさせたいと望んでいる。父は、そこがクローデットの一番の美点だと考えており、子供を型通りの人間にする必要はないという。父親はこれまで以上にクローデットを擁護している。父親は言う。この世界で最も価値のある功績は、揺らぐことのない信念を持つ人々から生まれたものだ、と。普通とは違う人々。トルストイ。テスラ。アインシュタインシェークスピア。時代遅れの型にはまらなかった人々こそが偉業を成し遂げた。母親にとってはそんなことはどうでもよく、突然、その唇から嗚咽が漏れる。娘が留年するなど耐えられそうにない。  

記憶 1092

クローデットは眠いふりをして、寝具に潜り込んで身を隠す。叫び声が聞こえない風を装う。母親は娘には特別支援が必要だと考えているが、父親はクローデットを引き離すことには反対だ。父親は正しい。クローデットは周りの子供に、自分が特別支援を必要としているとは知られたくないと思っている。周りの子供はクローデットを笑うだろう。いつかは状況が良くなる時が来る。きっとそうなると、クローデットは自分に約束する。新しい代行教師のケイヒル先生が、クローデットの力になってくれる。クローデットがいつもうわの空だと言っていた他の教師よりは、ずっと助けになるだろう。クローデットの父は、子供の脳の発達にとって最も害を及ぼすのはストレスだと言う。あるがままの娘でいてほしい!自分の歩幅でゆっくりと歩いてほしい!ストレスは脳を萎縮させ、自信を喪失させて想像力を台無しにしてしまう。ランチタイムにまで勉強をさせたくはないと、父は考えている。人はランチタイムに成長する。試験のプレッシャーや、間違いを犯すという恐れによって妨げられない、本物の成長がそこにある。  

記憶 1093

クローデットの成績が上がり、母親は喜んでいる。一人の教師の力によるものだ。たった一人の教師が全てを変えた。ケイヒル先生のおかげだ。他の子供たちはケイヒル先生のことを変人と呼ぶが、先生は変わり者ではない。ケイヒル先生は全てを心得ている。学生時代の勉強での苦労がケイヒル先生の他者への理解を深めているのだ。先生がクローデットを熱心に指導しているのは、これが理由だ。この経験があるからこそ、クローデットを置いていくことなく彼女に授業を理解させられるのだ。  

記憶 1094

クローデットは新しい先生が手助けをしてくれて喜んでいる。本当に自分の力となってくれている。毎日、新しいことを吸収している。事実と語彙以上に、クローデットは勉強のやり方自体を学んでいるのだ。むしろ、勉強方法を学んでいることが重要であるとも言える。だが、教師は何か別のことを行っている。クローデットに話しかけている。クローデットが抱える「問題」について話しかけ、その「問題」が本当は神からの祝福なのだと語っている。ある一つのタイプの「頭の良さ」を評価し、他のあらゆるタイプの人間を犠牲にするというシステムで成功する術を身につければ、その「問題」こそが成功の鍵となるのだと語る。間違いを犯したり、リスクを取ることが本物の学習や成長には必要とされる時代なのに、リスクを取ることや間違うことを否定するシステムが存在している。クローデットは情熱の人であり、情熱こそが全てというのはクローデットの先生の言葉だ。  

記憶 1095

自分が他の子供とは違っているということも、他の子供のようになる必要もないこともクローデットは分かっている。「型にはまる」とか、「理想の生徒」になるのはクローデットらしくないし、自分らしい方が良い。理想的な型にはまるということは、独特な感覚を持つ人にとっては牢獄のように感じられる。ケイヒル先生がクローデットをその牢獄から解放してくれた。成績は少しずつ上がり、試験の日が近づいてくる。クローデットは覚える必要があることを文章に書き、視覚化し、想像する。その方法がいい結果につながる。最高のタイミングで最高の教師に教われば、全く違った結果が出せる。

両親は非常に誇らしげだ。だが、母親は今でもクローデットに友達ができることを願っている。他の女の子のような趣味を持ってくれることを望んでいる。別の部屋では、両親がクローデットの誕生日に何を用意するか話し合っている。新しい人形を買うというのが、母親の意見だ。父親は、虫や植物やバクテリアに関連する物の方が喜ぶだろうと考えている。その提案に母親が難色を示すものの、父親はクローデットを擁護する。自分の理想を押し付けるんじゃなく、あるがままの娘を受け入れるんだ!

母親が口をつぐみ、突如としてすすり泣き始める。クローデットには、自分が学校でいじめを受けていたような経験をしてほしくない。クローデットが目を見開く。母も人とはどこか違った人だったのだと、生まれて初めて気付く。  

記憶 1096

クローデットは明日で8歳になる。興奮して待ちきれない。あと何時間、何分、何秒で8歳になるのだろう…普通の子ならそう思うはずだ。だが、クローデットはそうした感情とは無縁だ。プレゼントを開けるその瞬間を恐れている。プレゼントは毎年変わらない。人形。手芸品。アクセサリー。自分にとっては何の意味もない。きっと今年はクローデットは微笑んで、虫眼鏡や石のコレクション、植物学の本のセットなんて欲しくなかったというふりをするのだろう。母を失望させないために、クローデットは作り笑顔を浮かべる。そうすれば母親を不安にさせることもない。自分の成績を見て嬉しそうにしている母親の姿を見ると、心が落ち着いた。本当に気分が良かった。